About
私は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(NTTの研究所)で研究者をしています。 京都大学大学院にて鹿島久嗣教授の指導のもと、情報学の博士号を取得しました。 NTTに入社する前は、慶應義塾大学および東京大学で舟橋 啓教授と宮野 悟教授の指導のもと、システム生物学とバイオインフォマティクスの研究をしていました。
News
2024.09
同志社大学で非常勤講師を務めることになりました。 秋学期講義では、数理統計学の基礎、すなわち点推定と区間推定、仮説検定、分散分析(ANOVA)について、全15回の講義を担当します。 (授業概要ページ)
2024.04
主著論文 Differentiable Pareto-Smoothed Weighting for High-Dimensional Heterogeneous Treatment Effect Estimation が、UAI 2024(採択率:27.0%)に採択されました。 本研究では、条件付き平均処置効果(CATE)の推定の安定性を向上させるため、エンドツーエンドで逆確率重み付け(IPW)の重みを補正する differentiable Pareto smoothing を提案しています。
2024.04
共著論文 Meta-learning for Heterogeneous Treatment Effect Estimation with Closed-form Solvers が、Machine Learning(インパクトファクター:7.5)に採録されました。 本研究では、限られた数の観測データしか利用できない状況における条件付き平均処置効果(CATE)推定の技術として、メタ学習の活用を提案しています。
2023.12
早稲田大学との共同研究論文 Uncertainty Quantification in Heterogeneous Treatment Effect Estimation with a Gaussian-Process-Based Partially Linear Model が、AAAI 2024 に採択されました。 本研究では、条件付き平均処置効果(CATE)推定における不確実性定量化のためのベイジアンセミパラメトリックモデルを提案しています。
2023.09
研究提案 公平な機械学習予測を志向した不完全データからの因果推論 が、JST(ACT-X、採択率:19.9%)に採択されました。 本研究提案では、因果グラフ推定、因果効果推定、因果関係に基づく公平性における課題に取り組みます。
2022.05
主著論文 Feature Selection for Discovering Distributional Treatment Effect Modifiers が、UAI 2022 に採択されました。 本研究では、処置効果の異質性を生じさせる因果メカニズムを正しく理解するためのフレームワークとして、分布処置効果修飾因子(distributional treatment effect modifiers) という概念に基づく特徴選択法を提案しています。
Biography
私は、因果推論と機械学習の分野横断的な領域に従事する研究者です。 現在の研究では、不完全なデータ―すなわち、データ量が少ない、次元数が大きい、複雑な測定ノイズが混入しているなど、分析上のさまざまな困難を含む実世界データ―から因果推論を行うための基盤的手法の開発に取り組んでいます。 因果推論技術の高度化により、科学的知見の発見や信頼性の高い機械学習の実現に不可欠な基盤を提供すると考えています。
学歴
博士(情報学)
2019年10月 - 2022年9月
鹿島研究室、 京都大学大学院 情報学研究科 知能情報学専攻
博士論文:Causal Inference for Scientific Discoveries and Fairness-Aware Machine Learning(科学的発見と公平な機械学習を志向した因果推論)
キーワード:因果発見、処置効果推定、機械学習と公平性
修士(情報理工学)
2013年4月 - 2015年3月
宮野研究室、東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻
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修士論文:An Infinite Relational Model for Integrative Analysis of Cancer Genome Data(がんゲノムデータの統合解析を志向した無限関係モデル)
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キーワード:バイオインフォマティクス、オミクスデータ解析、ノンパラメトリックベイズモデル、生存時間解析
学士(理学)
2009年4月 - 2013年3月
舟橋研究室、慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科
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卒業論文:Developing Biochemical Network Simulator with Adaptive Step Size Numerical Integration(可変ステップ幅数値積分による生化学ネットワークシミュレータの実装)
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キーワード:システム生物学、常微分方程式、数値積分、分岐解析
職歴
研究代表者
2023年10月 - 2026年3月
ACT-X(科学技術振興機構 JST)
- 研究課題:Causal Inference from Incomplete Data for Fair Machine Learning Predictions(公平な機械学習予測を志向した不完全データからの因果推論)
- 4,500,000円(+ 500,000円)
- 採択率:19.9%
研究主任
2015年4月 - 現在
知能創発環境研究グループ、協創情報研究部、NTT コミュニケーション科学基礎研究所
- 因果グラフ推定
- 教師あり学習によるグレンジャー因果性推論(IJCAI2018, TOM2018)
- 処置効果推定
- 因果メカニズム解明のための分布処置効果修飾因子の選択(UAI2022)
- ガウス過程ベースの部分線形モデルを用いた条件付き平均処置効果(CATE)の推定の不確実性定量化(AAAI2024)
- 高次元観測データからのCATE推定における微分可能パレート平滑化重みを用いた深層表現学習(UAI2024)
- メタ学習による少数データからのCATE推定(Machine Learning 2024)
- 機械学習と因果関係に基づく公平性
- より弱い仮定下での経路特異的反実仮想的公平性を達成する予測器の学習(AISTATS2021, DAMI2022)
Selected Research Topics

高次元観察データからの条件付き平均処置効果推定のための微分可能パレート平滑化による重み付け
薬剤投与など,処置の効果を正しく評価することは、個人間における処置効果のちがいを深く理解する上で有用であり、個別化医療、個別化教育、ターゲット広告など,さまざまな分野における効果的な意思決定に役立ちます。
観察データから処置効果を推定するためには、処置の選択やその結果に影響を与える個人の特徴(交絡因子)によって生じる、いわゆる擬似相関と真の因果効果を区別する必要があります。
どの特徴が交絡因子に相当するかが不明であることが多いため、実用上はできるだけ多くの特徴をデータセットに追加しようとします。
その結果、高次元観察データからの異質処置効果推定という課題がしばしば生じます。
このような高次元データに対する有望なアプローチとして、重み付き深層表現学習があります。
これは、高次元の観測特徴を交絡因子の潜在特徴表現とそれ以外の表現とに分解し、重み付き予測損失を最小化することで推定器を学習します。
このデータ駆動型の特徴分解は、潜在結果の予測に有用な調整変数の情報を失わないために有効であるとされています。
しかし実際には、この手法は、条件付き確率の逆数として与えられる重み(逆確率重み付け:IPW)の値の数値的不安定性により性能が低下するという問題があります。
この問題を解決するために、我々はエンドツーエンドで利用可能な効果的な重み補正フレームワークを提案しました。
具体的には、極値統計におけるパレート平滑化と、機械学習における微分可能ランキングを組み合わせることで安定的に逆確率重みを補正するフレームワークを実現しました。
これにより、高次元データから特徴表現を効果的に学習し、高精度な処置効果推定を達成することが可能になります。
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Yoichi Chikahara, Kansei Ushiyama. Differentiable Pareto-Smoothed Weighting for High-Dimensional Heterogeneous Treatment Effect Estimation. Proc. of the 40th International Conference on Uncertainty in Artificial Intelligence. Barcelona, Spain, July 2024 (UAI2024; Acceptance Rate: 27%) [Preprint] [Openreview] [Proceedings] [Paper(PDF)] [Poster(PDF)] [Code]

分布処置効果修飾因子発見のための特徴選択
処置(または介入)の効果を統計的に推定することは、精密医療、個別化教育、ターゲット広告など、さまざまな応用分野において極めて重要です。
例えば、医療処置(薬剤投与やワクチン接種など)が健康状態に与える影響を予測することは精密医療の発展に不可欠であり、教育や研修プログラムの効果を推定することは個別化教育に役立ちます。
こうした処置効果の大きさは個人によって異なる場合があり、その異質性がなぜ生じるのかを明らかにすることは、複雑な実現象を対象とする多くの科学領域において重要な研究課題です。
従来よく用いられてきたアプローチは、処置効果の大小に関連する個人の特徴量を選択するというものです。
しかし、この特徴選択は容易ではありません。
なぜなら、処置効果とは「処置を受けた場合」と「受けなかった場合」という2つの潜在結果の差として定義されますが、これらは同一個人について同時に観測することが不可能だからです。
そのため、既存手法では、観察データから容易に推定可能な、各特徴について同じ値(属性)を持つ個人群における平均処置効果という統計量に着目します。
しかしこのような平均値では、処置効果の平均値には影響しない一方で、分散など他の分布パラメータに影響を与えるような重要な個人の特徴を見落とす可能性があります。
この欠点を克服するために、我々は分布処置効果修飾因子を発見するための特徴選択フレームワークを提案します。
kernel maximum mean discrepancy(MMD)に基づく特徴重要度評価指標を設計し、第1種過誤率(偽陽性結果の割合)を所望の水準に制御できる多重検定ベースの特徴選択アルゴリズムを導出しました。
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Yoichi Chikahara, Makoto Yamada, Hisashi Kashima. Feature Selection for Discovering Distributional Treatment Effect Modifiers. Proc. of the 38th International Conference on Uncertainty in Artificial Intelligence. Eindhoven, Netherlands, August 2022 (UAI2022) [Preprint] [Openreview] [Proceedings] [Paper(PDF)] [Spotlight Slides(PDF)] [Poster(PDF)]

経路特異的因果効果制約を用いた個人公平性を達成する分類器の学習
機械学習は、人々の生活に大きな社会的影響を与える意思決定(採用、融資、再犯予測など)にますます利用されるようになっています。
こうした応用を実現するためには、予測結果が高精度であるだけでなく、
性別、人種、宗教、障害、性的指向といったセンシティブな特徴について公平な意思決定を行う「公平な予測モデル」を学習することが極めて重要です。
しかし、意思決定が差別的であるかどうかを判断することは難しく、何を以て差別的と感じるかは法律や判例,時代の倫理観などによって異なることが多いです。
例えば、体力を必要とする職種の採用判断において、体力のなさを理由に応募者を不採用にすることは、間接差別ではないとされる場合があります。
このような「どのような意思決定を差別的とみなすべきか」という事前知識は、不公平な経路(unfair pathways)を含む因果グラフとして表現できます。
既存のいくつかの手法は、これらの不公平な経路に沿った因果効果に制約を課すことで公平な予測モデルを学習しようとしています。
しかし、これらの手法は、データに対して非現実的な仮定を置かない限り、個人レベルでの公平性を保証することはできません。
この課題を解決するために、私たちは各個人における不公平な因果効果をゼロに制御する最適化問題を効果的に解くフレームワークを提案しました。
そのために、個人ごとの因果効果がゼロでない確率を「個人不公平確率(Probability of Individual Unfairness; PIU)」と定義し、このPIUをゼロに制約する最適化問題を設定します。
このPIUはデータから直接(点)推定することができない量ですが、その上界を相関ギャップ(correlation gap)と呼ばれる確率計画法分野の概念を用いて導出し、この上界をゼロに制約する最適化問題を解くことを提案しています。
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Yoichi Chikahara, Shinsaku Sakaue, Akinori Fujino, Hisashi Kashima. Learning Individually Fair Classifier with Path-Specific Causal-Effect Constraint. Proc. of the 24th International Conference on Artificial Intelligence and Statistics. Online, April 2021 (AISTATS2021) [Preprint][Proceedings] [Paper (PDF)] [3-min. Video (Link)] [Slides (PDF)] [Poster (PDF)]
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Yoichi Chikahara, Shinsaku Sakaue, Akinori Fujino, Hisashi Kashima. Making Individually Fair Predictions with Causal Pathways. Special Issue on "Bias and Fairness in AI", Data Mining and Knowledge Discovery (DAMI), 2022 [Article] [View-only shared link]
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"Accurate and Fair Machine Learning based on Causality", The 6th StatsML Symposium (StatsML2022), Online, February 2022. [Abst] [Slides]

教師あり学習に基づく時系列の因果推論
時系列データにおける因果関係の発見は、時系列解析における最も重要な課題の一つであり、さまざまな分野で重要な応用があります。
例えば、研究開発(R&D)費用 X が総売上 Y に影響を与えるが、その逆は成立しない(X → Y)という因果関係を見つけることは、企業の意思決定に役立ちます。
また、時系列の遺伝子発現データから遺伝子間の因果(制御)関係を発見することは、バイオインフォマティクスにおける中心的な課題の一つです。
このような応用に対しては、時系列因果性の尺度としてグレンジャー因果性(Granger causality)[Granger 1969] が広く利用されてきました。
その定義は非常にシンプルで、「もし X の過去の値が Y の未来の値を予測する上で『有用』であれば、X は Y の原因である」とされます。
この「予測における有用性」を評価するために、多くの従来手法では回帰モデルが用いられます。
回帰モデルは変数間の関係を表す数学的表現であり、適切にデータへ当てはめることができれば、正しい因果方向を特定することが可能です。
しかし、各データに適した回帰モデルを選択することは容易ではなく、データの十分な理解(例えば、データ量、変数間の関係、データに含まれるノイズなどの考慮)が必要となります。
私たちの目標は、データに対する深い事前理解を必要としない新しいアプローチを構築することです。
そのために、回帰モデルの代わりに分類器を利用する教師あり学習手法を提案します。
具体的には、分類器を学習させ、時系列に対して三値の因果ラベル(X → Y、X ← Y、因果関係なし)を割り当てることで因果関係を推定します。
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Yoichi Chikahara, Akinori Fujino. Causal Inference in Time Series via Supervised Learning. Proc. of the 27th International Joint Conference on Artificial Intelligence, Stockholm, Sweden, July 2018 (IJCAI2018; Acceptance Rate: 20%)[Proceedings] [Paper] [Slides] [Poster]
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"Causal Inference in Time Series via Supervised Learning", Top Conference Session (Machine Learning) Forum on Information Technology (FIT2019), Okayama University, Okayama, September 2019 [PDF]
Publications
See here for my publication list.
Skills
私は、統計的因果推論において特定の一分野にとらわれることなく、幅広いテーマにわたって研究を行ってきました。 研究内容は、因果グラフ推定、因果効果推定、因果関係に基づく公平性など、多岐にわたります。 これらの課題に取り組むにあたり、機械学習、統計学、数理最適化といった関連分野の手法を活用しており、その中にはカーネル法、確率計画法、特徴選択、深層表現学習、パレート平滑化、メタ学習などが含まれます。
私は語学学習にも興味があります。 2024年には、Diplôme d'Aptitude Pratique au Français(実用フランス語技能検定試験; 仏検)準1級に合格しました(合格率:20.0%)。



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